こんにちは、たけうちです。
ソフトウエア技術を活かして、「新事業を開発したい!」とソフトウエア会社の社長から相談を受けました。
社長はIT企業と言われながら実態は技術者派遣業であることを悩んでいました
お話をお聞きすると、社長は今まで培ったソフトウエア技術を活かして、現在の技術者派遣事業とは違った新事業を開発して、新しい事業構造の会社へと転換したいと考えていました。社長は技術者派遣事業ではそれなりに成功していましたが、次のようなことで悩んでいました。
- 社員のケアが思うようにできず、有望な社員が辞めてしまう
- 社員の会社に対するロイヤリティーはどうしても低い
- 派遣なので社長が考えるようなエンジニアは会社では養成ができない
- 社員研修はできても、現場でのOJT研修ができない
- 技術習得は派遣先の技術分野や技術レベルにどうしても依存する
- 常駐先が固定されると、技術者として様々な経験をさせたいができない
- 言われた仕様に対してのプログラム開発なのでエンジニアの可能性の芽を摘んでいる
- プロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャーを育成できない
- 企画提案できるエンジニアを養成できない
- 会社として新しい技術を取り込むことが能動的に対応しにくい
- 経験した技術は人に残り依存し会社には残らない
- 常駐先の管理なので、頑張っている社員に対して正当に評価ができない
- エンジニアの人数で売上が決まってしまう
- 客先常駐では待遇にも限界がある
技術者派遣事業は派遣を良しとする社長や社員にとっては本質的な悩み違うところにあるかもしれません。しかし、この会社の社長は前述の悩みを抱えて、このままでは駄目だと真剣に悩んでいたのです。
ここまで読まれてこの社長と同じだと共感される社長は多いのではないでしょうか。何故なら、これは日本のIT企業が抱える共通の課題だからです。
新事業開発へ挑戦する社長が思案する21の現実
社長は自社の棚卸しを行い現状確認しました。このままでは新事業の開発展開どころか、時代の流れについていけないと気がつきました。新事業を開発展開するには今できるところから一歩一歩進むしか無いとあらためて思いました。社長は次のように自社の棚卸しをしました。
- システムを請負で受注した経験があまりない
- 請負開発を任せられるプロジェクトマネージャーは限られている
- できる人材は派遣されているので派遣先と折り合いをつけねばならない
- エースエンジニアを派遣先から戻すには代わりの人材が必要になる
- 代わりの人材がいなければ若いスタッフだけでは派遣先の開発が回らない
- システムを提案できるセールスエンジニアがいない
- 技術診断や技術提案ができるテクニカルエンジニアはいない
- 直接顧客からシステム開発を受注するには会社の実績と知名度がない
- 一部請負開発もしているが技術派遣と違って売上が安定しない
- 下請けで請負開発する場合、発注元のPM能力により振り回される可能性がある
- 振り回されることで手余り手戻りとなり請負開発の採算が悪化する
- 何でもできるが得意な技術分野や業務分野はあるようでない
- 得意とする開発ツールや業務パッケージもあるようでない
- Web系開発やJava/Python/DB言語での開発経験が多い
- 基本設計以下で業務系開発の常駐先開発が多い
- インフラ構築やシステム運用を常駐で請け負っている
- 現状ではAIなどのトレンド技術を経験するチャンスは少ない
- 新しいことにチャレンジすることが好きな人材は限られている
- 製品企画を経験した人材はいない
- 人材を派遣から引き抜けば売上が下がる
- 投入できる資金も限られている
社長が考えた7つの戦略
社長は可能性として、次のような戦略を考えました。
- 顧客密着技術者派遣戦略:現行技術者派遣をブラッシュアップし、上流から一気通貫対応できるようにして、SIer顧客に徹底的に密着する戦略
- 請負技術サービス戦略:SIerに提供していた技術者派遣をユーザー部門提供でできるようにな技術サービスモデルを開発して展開戦略
- 下請け特化請負開発戦略:技術者派遣でなくSIerから請負開発で下請け受注して、社内複数の開発ができるようにする戦略
- 特定分野請負開発戦略:得意な特定分野/特定業務或いはWEBシステムに特化して請負開発をする戦略
- ITインフラ構築運用サポート戦略:中小中堅企業のITインフラ支援部門としてのサービスモデルを開発し展開する戦略
- 自社プロダクト開発販売戦略:自社製品を開発して販売する戦略
- クラウドサービス開発販売戦略:特定アプリケーションをクラウドサービスで提供するサービス戦略
社長が選択した2つの現実的な戦略
その1. 顧客密着技術者派遣戦略
現行の技術者派遣を徹底的にブラッシュアップした顧客密着技術者派遣戦略をとりました。企画提案設計はSIerで、基本設計以下を丸投げにしてもらって、丸ごと設計開発ができる会社を目指しました。
その2. 下請け特化請負開発戦略
同時にSIerからサブシステムの下請け請負開発を専門にした部門を立ち上げ、下請け特化請負開発戦略を推進しました。社内に持ち帰り開発をすることで、複数のプロジェクトのマネジメントを行い、プロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーを社長自ら養成しました。
社長は足元を固め次のステップへの準備をする戦略なのです。また、AIやメタバースなどの新しい技術分野へのアンテナも高くしました。
まとめ
社長は現実的な戦略を選択しました。この選択はコンサルタントが言うような机上の戦略でなく、社長自身が現実を踏まえた短期の経営戦略です。ところで、IT企業に限らず、製造業など下請けでビジネス行っている会社はマーケティングがとても重要です。常に最終ユーザーの動向と技術トレンド、環境トレンドを押さえていないといつの間にか仕事がなくなってしまいます。時代の変化は早い!電気自動車があっという間に世界を席巻してしまう時代です。
神楽坂コンサルティング株式会社 社長の相談役 竹内一郎